引き篭り魔法使いが術を失敗して、巻き込まれてしまいました。

  

21.引き篭り師弟と、別離のち出会い6


 さて、どうしたものか。
 何度、作戦会議を繰り返しているでしょうか。作戦会議どころか、脳細胞たちはお茶でも啜り、ぼんやりしています。思考停止です。職務放棄ですよ。
 着ていた洋服に着替え、ベッドに腰掛けているのですが。取り囲まれている状況です。冷や汗がとまりません。折角の干したてのブラウスも、一気に湿ってしまうのではという感じ。
 いえね。決して、かごめかごめ的に包囲されているわけじゃないんですよ? でも、距離はあっても、混乱効果は充分です。
 混乱の原因は、目の前にいらっしゃる方々。だって、どこからどう見ても、師匠と訪問者さんたちなんです。なのに皆さん、私もフィーニスたちも知らぬ存ぜぬな態度。

「ししょー、私、どうなっちゃったんだろ」

 口の中でもごっと呟くと、腕の中のフィーネとフィーニスが見上げてきました。不安いっぱいに瞳を揺らしている二人。膝におろし、全身を撫でます。二人を安心させるつもりが、ぬくぬくな体温と手触りに、私が安らぎを貰っちゃいます。
 ブラッシングもしてもらったのか。二人の毛は、心地よく指をくすぐってきました。ふわふわです。

「うなぁ」
「ん、違った? 抱っこがいいの?」
「でち」

 腕を上ってこようとしたフィーネとフィーニス。抱き直すと、てしっとしがみ付かれました。言葉少ないのが、二人の心を映しているようで、切なくなります。

「私も、こっちのが、嬉しいな」
「なのぞ」

 目線をあげた先にいらっしゃるのは、ディーバさんを腕の中に抱え、壁にもたれているセンさん。未だに笑いが収まらないのか。思い出したように笑い声を響かせます。その度、ディーバさんに肘うちをくらっていますが、幸せそうですよ。
 お二人、と言うか皆さん似たような魔法衣を身につけてます。ファンタジーな感じ。詰襟に裾が長い、しゅっとしたデザイン。その上に、前開きのコートを羽織っていらっしゃいます。ディーバさんはミニスカートで、ホーラさんはショートパンツですが。色も違いますね。センさんとディーバさんは、お揃いで真っ白。

「相変わらず片付けてない部屋だな、ホーラ。あの本棚なんて、どーいう法則だよ」
「そう思うならラスが整理整頓してくださいなのですよ。散らかってた方が、わたしは把握できるのですけどねぇー」
「それ、片付けられない奴の常套句だろ。つか、こんなに収集して、戦争が終わったらだれが運び出すんだつーの」

 重ねてあった本を机に積み上げ、椅子に腰掛けているのはホーラさん似の方。似ているというのは、私が知っているホーラさんより、少し身長が高く見えるから。いつものツインテールも片側で、ハロウィン魔女っこではなく薄紫色の魔法衣です。
 よくよく見れば、ラスもだぼっとした上着の下は、同じ素材のようです。えんじ色。

「あの、まだ、怒ってる、ですか?」
「別に」

 うっ。窓際で腕を組んで目を閉じていた師匠に尋ねると、平淡な返事を投げられました。つっけんどんにも聞こえるし、本当に気にしていないようにも思えるし。感情が読めません。表情が出ていたのは、「髪がある」発言直後、思いっきり眉間に皺を寄せたくらい。
 やっぱり、師匠とは別人のようです。
 でも、外見はそっくりなんですよね。師匠もどきさん、とお呼びしましょうか。お名前伺ってないので。こちらも同様の型の魔法衣ですが、真っ黒です。黒を好むのも師匠っぽい。長い髪を鎖骨下あたりで緩く結んでいる姿は、出会った頃の師匠みたい。
 んー。ますます持って、どういう状況か判断つきません。カローラさんが紡ぐ夢の続きじゃないん……ですよね?

「いつまでも笑っているわけにはいかないしな。状況整理でもすっか」

 気まずい沈黙の合間に笑いが漏れるという、奇妙な空気。それを壊してくれたのは、私の隣に腰掛けているラスでした。おぉ! ラス様! 救世主!
 ぶんぶんと大きく頷き乱れた髪を、ラスが直してくれました。柔らかい笑みが、妙にくすぐったい。ホント、女性なれしているです。いちいち反応しちゃう自分が、お子様で情けない。
 師匠もどきさんを横目に入れますが、欠伸をしているだけです。
 フィーニスとフィーネは、いつも通り鼻に皺を寄せています。鼻先をぐりぐりすると、ふみゃんと笑ってくれましたけど。

「アニムの師匠はウィータっていう名前らしいが、あそこの無表情男と同名なんだよ。あいつも世に名をとどろかせている魔法使いだから、万が一、同名の奴がいても魔法使いやら魔道師名乗る時点で改名すると思うんだけどさ」

 真面目な空気に変わったラスが、窓際の師匠もどきさんを指差しました。再度師匠もどきさんを映すと、わずかですが口の端が落ちてしまいました。うぅ。師匠のと違って、圧迫感があって怖いです。
 うっと身を引くと。今度は、にこにこと私を見ているホーラさんと目が合いました。なぜ、満面の笑み。

「私のししょーは、ウィータ言います。詠唱名はウィータ・アルカヌム」

 あの人とはちょっと違います。という部分は飲み込んでおきました。ただ、師匠の名前だけを述べるに留めておいた方が良いのではと、思ったんです。あれこれ細かい情報を一気に出しても、どうせ全部纏めて否定されるだけでしょうし。
 師匠もどきさんが、ぴくりと眉を動かしました。が、動きがあったのは、それだけ。口を閉ざしたままの師匠もどきさん。ラスが顎で発言を促します。

「詠唱名まで同じとはな。だが、俺の式はウーヌスだけだ。お前らも承知の通り、弟子なんて面倒臭いもんをとったことはねぇし、必要性も感じない」
「ウィータ、何言ってるんだい。弟子はすばらしいものだよ? 僕のディーバが、っていうのが正しいかもだけどね」
「センとディーバが師弟関係なのは、ガキの頃、ディーバをこっち側に存在固定したいがため、センが無理矢理契約を結んだからだろうが」

 おぉ?! そうでしたか! ディーバさん、元精霊さんだったというのは教えてもらっていましたが。センさん、薄々感じてましたが、結構強引な方っぽい。
 センさんとディーバさんを交互に、まじまじと見つめてしまいます。ぶしつけな視線だったでしょうに。目があったディーバさんは、淡く微笑んでくださいました。綺麗で可愛いなんて最強!
 つい、いつものノリで「まぶしいっ!」なんて呟いて、手を翳してしまいました。

「ウィータ、あの子素直でいい子じゃないか。僕の奥さんがきらきらしてるの、ちゃんと見えている。大体、人聞きが悪いよ。僕はディーバに恋に落ちて、弱っていたディーバを助けただけだよ?」
「……勝手にほざいてろ」
「ウィータも、センとディーバ相手だと口数が多くなるのはいいけどよ。話進めるぞ?」

 恋をして助けた、ですか。弱っているのを助けて恋に落ちた違うですか。色々突っ込みたかったり、掘り下げてお伺いしたかったりですが、今は我慢しておきましょう。言語って難しいな。
 意外に冷静なのかも知れない、自分。ふぅと溜め息が落ちました。
 その拍子に、俯いてぷるぷる震えているフィーネとフィーニスに、ようやく気がつきました。やっぱり、混乱してる!
 慌てて二人を持ち上げます。お腹を見せた二人の瞳には、めいいっぱい涙が溜まっていました。親指の腹でお腹をさすると、ぽろぽろと真珠のような雫が零れてしまいました。
 みゃうみゃぅと鳴き声をあげながら、首にすがり付いてきた二人。そうですよね。大好きな主に存在を否定されたようなものですもんね。個としても式神としても、辛いに違いありません。むしろ、自分の生みの親に似た人に否定されたんですから、私なんかよりずっと悲しかったはず。

「ししょー……」
「だから、師匠じゃねぇって。確かに、お前自身の魔力は感じないくせに、魂にも持ち物にも、いちいち俺の魔力が絡んでいる。けれど、俺には心当たりがないもんの存在は、易々と認められねぇよ」

 リュック、あなたが持ってたんですね。全然気がつかなかったです。師匠もどきさんが後ろ、出窓に置いていたリュックを持ち上げて見せました。
 ついうっかり、師匠と呼びかけてしまった私も悪いです。でも、師匠もどきさんの否定しようもひどいもんですよね。
 でも……言葉はきついけれど、気まずそうに首筋を掻いている姿は、憎みきれません。本心じゃないのか、単にフィーネたちを可哀想に思ったかはわかりませんが。
 両肩にお腹をくっつけたフィーネとフィーニスは、甘えるように擦り寄ってきます。こんな時、師匠なら一緒にフィーネたちをくすぐってくれるのに。って! 私の持ち物に師匠の魔法が感じられるのは、ある意味当然なのでしょうけれど。よくよく考えると、香りがついているみたいで、嬉しいやら幸せやら、恥ずかしいやらです。
 師匠への気持ちが、眼前のそっけない師匠もどきさんへの苛立ちを助長します。

「『私のししょー』は、そこの人――ししょーもどきさんみたく、冷たい口振りは、しないですよ! ちょっとどころか、中身は全然、違うです! ししょー、否定するだけ、ないもん」

 睨み気味で、つっけんどんな語調になっちゃいました。八つ当たりもいいところな自覚はあります。でも、私はともかく、フィーネたちを泣かすのは許せません。
 が、よっぽど怖い顔だったようですね。当のフィーネとフィーニスに、てしてしと頬を撫でられてしまいました。一生懸命伸びをして触れてくれる二人に、自然と笑顔が浮かびます。隣のラスも、笑っています。
 師匠もどきさんは、小さく溜め息を吐きました。面倒臭い感が、はんぱないですよ。

「髪が、あるし?」
「あひゃひゃっ! アニムのウィータ師匠は、はげてるのですぅ?」

 至極真剣な顔つきで尋ねたディーバさんと、爆笑したホーラさん。センさんも口元を押さえて、体を震わせています。ラスは苦笑して肩を竦めました。
 師匠もどきさん、苛々しているのでしょうか。無言のまま、出窓部分に音を鳴らして座りなおしました。

「はげてる、ないですよ! 髪が短い、意味です」
「へぇ。髪が短いウィータって、あんまり想像がつかないなぁ。それにしても、師匠もどきさんて、すごいネーミングだよねぇ」

 センさん、笑顔が怖いです。気持ち後ずさっちゃいました。
 私もちょっと嫌味かなと思いましたけど、師匠に名前呼び禁止されてるから同名は呼びにくくて。
 センさんは師匠が大好きですからね。悪意があると敵認定されちゃったんでしょうか。変なところは、私の知っている皆さんと同じです。

「じゃあ、ウィータさんて、呼んでもいいです?」

 うぅ。これはこれで、照れます。まさか師匠意外の人を呼ぶことになるなんて、予想外すぎますよ。
 いやいや、師匠もどきさんは同姓同名で外見がそっくりなだけで、師匠本人じゃないですもん。って、ほとんど一致しているじゃないですかい。
 そう思ってしまったのが最後。全身の血が、祭りだ祭りだと騒ぎ始めちゃいました。頬の熱が上がるのを、止められません。誤魔化しにもなりませんが。師匠もどきさん――ウィータさんに反応して欲しくて。あれこれ悩んでいるうちに、無意識に首を傾げていました。
 フィーニスから「ぶみゃ」とつぶれた声があがり、慌てて胸に抱き直します。ごめんごめん。師匠はいつも催促すると、反応を返してくれるから。癖になっちゃってるのかも。
 フィーネはちょっと爪をたてて、肩にしがみ付いています。

「普通に『ウィータ』でいいじゃないのですぅ?」

 ホーラさん、その三日月型のおめめは一体。ウィータさんと私を交互に捉えては、また不思議な笑いをともに、机をばしばし叩いたり。
 あっ、本が崩れ落ちた。ここはホーラさんのお部屋らしいですよ。散らかっても、全く気にする気配はありません。
 床に散らばった本と用紙を拾い上げたのは、ラスでした。面倒見がいいですね。そんなところもラスターさんにそっくり。

「師匠なんだから、『ウィータ様』じゃなくてか?」
「さまぁ?!」

 ぶほっ! ウィータ様って! 想像できない!
 師匠だって、きっと皺と言う皺を総動員して「気色悪ぃな」って手をぶらぶらさせて拒否するよ。眠たげな瞼をいっそう落として、睨んでくる図がありありと思い浮かびますね。
 妄想に引きずり込まれた私を引き戻したのは、ぎょっと目を見開いている皆さんでした。空気が凍り付いてる?!

「あい! ふぃーねはねー、あるじちゃまって呼んでるでち。うーにゅすは、うぃーたしゃま、でしゅの。あにむちゃはししょーで、ふぃーにすはありゅじなにょー」

 
 ですが、元気に手をあげたフィーネのおかげで、空気が和らぎました。ウィータさんの目元にも、ふっと笑みが浮かびました。一瞬、見間違いかとも思ったのですが。フィーネがふにふにと笑顔を弾ませたので、幻じゃなかったんだと胸が熱くなりました。
 ラスに喉元をくすぐられ、さらに嬉しそうになったフィーネ。私とラスの距離も近いよう。
 視線をずらした先にいたのは、未だに優しい空気を纏って腕を組んでいるウィータさんでした。そんなウィータさんと師匠が重なって。にへらと頬が緩んでしまいました。反射神経ですかい。私の頬筋さんたちよ。
 まぁ、すぐにウィータさんには、しかめっ面を逸らされたわけですが。
 全然無表情鉄火面じゃない。実は、少しばかり、もしかしてここは過去なのか、平行世界なのか。私なりに可能性をあげていたのですが……違いますよね。以前ラスターさんがおっしゃっていた過去の師匠みたく、無表情じゃないもん。

「ところで、アニムはウィータの弟子なわけだから、別段様付けってのも可笑しくないんだろ?」
「んー。うちは成り行きっての、あるけど。ししょーは、私が、かしこまる、嫌がるの」
「嫌がるだって? 一体、どんな師弟関係なん――」

 どんな師弟関係。
 その言葉をきいた瞬間、ぼっと全身に火がつきました。うわぁぁ! 落ち着け、落ち着くんです、自分! さっきのお祭り騒ぎが静まったところだったのに!
 っていうか、今更赤くなったりしちゃってるの! 
 自分に言い聞かせるごとに、師匠との口づけやら体温が蘇ってきて。ついには、視界まで潤んできちゃいました。なにこれ、走馬灯ですか。私、ここで羞恥によって死ぬデスか。
 恥ずかしすぎて、フィーニスを顔に貼り付けて隠します。私の守護神様! 助けて!
 心の叫びが通じたんでしょうね。フィーニスは「あにみゅ。あほっぽいのじゃ」と呆れながらも、てしてし額を撫でてくれています。

「あーうん。すっげー手に取るように理解した。はぁ。俺、アニム、すっげぇ好みだったんだけど、やっぱ、ウィータのだったのかよ」
「やっぱり?」
「あぁ。アニムを拾った時に、『ししょー』って恋う色でつぶやきながら、あいつの掌に甘い調子で擦り寄ってたからさ」

 ぎゃっ! 心底疲れたという様子で隣に腰掛けたラス。燃料を投下されて、心臓が爆発しそうなくらいの勢いで血を流し始めました。
 目がぐるぐるまわる。あぁ、このままベッドに倒れこんでしまいたい。っていうか、実際およよという姿勢でベッドに顔を埋めます。フィーニスが頭を叩いてきても、顔をあげられません。

「なんですかぁー! その美味しい話! もっと早く教えて欲しかったのですよぉ! ウィータってば、普段センとディーバのらぶらぶっぷりに毒吐くのに、自分が弟子に手を出してたなんてぇ。いやんいやん!」
「俺じゃねぇって」
「とか言いながら、満更でもないんじゃないのかい?」

 ずきんと、胸が痛みました。師匠の言葉じゃないんだ。傷つく必要なんて、ないんだもん。ぎゅっとシーツを握り締めて、顔を隠します。絶対へこんでるところを見られたくない。変な意地が湧いてきてしまいます。
 フィーネが肩からずり落ちた気配がしました。硬くした指を舐めてくれる柔らかさも、肌に感じました。

「そっか、そーだよなぁ。こんな可愛くて純粋そうな子が、ウィータに惚れるはずがない」
「ラスの偏見は、ともかく……」

 ブーツの軽い音が近づいてきます。
 体を起こすと、ディーバさんがそっと手に触れてきました。ひやりと冷たいけれど、とても柔らかい手つき。一見感情が薄い印象を受ける瞳も、じっと見つめていると、浮かんでいる優しい色を見つけられました。
 周りの皆さんも冷やかすのをやめ、ディーバさんの行動に注目していらっしゃいます。

「アニムの師匠なウィータちゃんは、どんな人? 魔力を持たないアニムが、弟子なのはなぜ? 疑ってるわけじゃなくて、ただ知りたいだけなの」

 『疑っているわけじゃない』の一言は、不思議なくらい、喉の奥から言葉を押し上げてきました。ぐっと喉が詰まったのは数秒で。愛らしく顔を覗きこんできたディーバさんに、後押しさます。
 深呼吸を数回繰り返すと、鼓動はすっかり静かになってくれました。

「私の、ししょー、すごい魔法使いだけど、引き篭りで――えっと、引き篭ってるは、広大な結界張られた、場所です。私、ししょーが失敗した召喚術に、巻き込まれたです。私、魔法使えないは、魔法存在しない世界から、きたから。今、元の世界戻る術、なくて、ししょー探してくれてる、です。だから、便宜上、私を、弟子として、おいてくれてるです」
「アニムは異世界人、なのね。通りで、不思議な存在値に、片言。ウィータちゃん、引き篭ってるって、ずっと二人なの?」

 ウィータさんが興味を抱いたのか。体ごと私に向けました。この部屋に入ってきてから、初めてかもしれません。って、違う。あれは、私が引き篭り魔法使いって悪口を放った時の目つきだ。苦々しさを含んでます。
 ウィータさんは、組織に所属しているみたいですからね。引き篭り呼ばわりは、不本意なんでしょうね。でも大丈夫。ウィータさんのことじゃないもん。自分で否定してたくせに、変なの。

「お友達やお知り合い、時々いらっしゃいます。ディーバさんやセンさん、それにホーラさんにも、お会いしてます」
「おっ俺は?!」
「似てる方は、いるけど……」

 愉快なポーズで乗り出してきたラス。数センチの距離をディーバさんに叱られ、さっきの私そっくりな姿勢でしくしく嘆いています。ラスターさんみたく、オーバーリアクションです。
 フィーニスがぴょこぴょこ跳ねながら、ラスに近づいていきました。慰めてあげるのかなと思ったのですが。鼻をひくひく動かして首を傾げただけで、すぐに戻ってきました。どうしたの、私の可愛いフィーニスよ。
 って、センさんの視線が突き刺さる! 自分やディーバさんの名前を出されてご機嫌斜めになってるのでしょう。うん。センさんは紳士ですが、その分、誠実でない相手や疑念を抱いた人間には容赦ないんです。出会った頃、問い詰めてきた形相を思い出します。

「わたしたちの名前も知ってるのですねぇ」
「まぁ、僕ら有名人だし、さっきから散々口にしているじゃないか。この駐屯地はもちろん、周辺諸国では知らない人の方が珍しいんじゃないかな」

 やっぱり疑ってらっしゃるんですよね。めげない。だって、私は嘘なんてひとつもついてないんですもん。挙動不審になってたら、本当に怪しくなってしまうし、不信感を抱かれても仕方がないです。
 ディーバさんだけでも疑わないと言霊にしてくださったんだから、毅然としていよう。

「異世界人だって、証拠はあるのか?」
「魔力で、わからない、です?」
「質問に疑問で返すな」

 理不尽でございます。だって、ラスだってディーバさんだって、不思議な存在値ってのは把握していたんですもん。ここは師匠と同じですね。
 笑いそうになったのを必死に堪えます。ぷぷっと息が漏れちゃったのは、申し訳ないです。
 うーん。そうだ。リュック! リュックの中にスマホやデジカメがあったはずです。この世界は機械文明って進んでいないはずなので、証明材料になりそうですね。とりあえず、腰後ろにあるリュックを返してください、ウィータ。
  って、ウィータとか呼んじゃった!! 心の中だし相手は師匠じゃないのに。うるってくるのは、何故でしょうか。




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