引き篭り魔法使いが術を失敗して、巻き込まれてしまいました。

  

6.引き篭り師弟と、吹雪の訪問者たち 【7】

「じゃあ、始めるぞ。使う魔法の制限はなしだが、どちらかが失神または降参すれば終了。それに、グラビスが戦闘不可能と見做(みな)した場合もだ」

 師匠が魔法映像に向かって、淡々と告げました。今、魔法映像は四つ。師匠とアラケルさんを映したモノが、二人に加えてグラビスさんと私の前にもあります。テラスの前にある魔法映像はひときわ大きく、後ろも透けています。半分ずつ、師匠とアラケルさんが映っています。目線より少し上にあるので、師匠を直接見下ろすことも可能です。
 そんな魔法映像に映ったアラケルさんは、余裕そうです。笑顔で首を摩っています。

「りょーかいっす。親父、年寄り魔法使い庇って、やわな怪我程度でとめんなヨ」
「馬鹿者! お前が泣いて降参を示しても止めぬわ!」

 森を揺らす勢いの怒声が、グラビスさんから飛び出しました。すごい。私の方が上にいるのに、耳が痛いです。フィーネとフィーニスは、垂れている耳をさらに押さえています。
 アラケルさんは慣れているのか、気にした様子もなく右手を掲げました。この部類には、慣れてはいけない気が。

「そんなコトより、さっさと合図しっろっての!」
「度胸があるのと、無謀なのは違うんだぜ?」

 師匠が溜息混じりに零したのは、呆れの色濃い声でした。
 またアラケルさんの血圧が上がったようです。アラケルさん、かっかしやすいですよね、本当に。食生活が乱れてらっしゃるのではないでしょうか。好き嫌い多そうだし。
 私が余所事を考えているうちに、アラケルさんは呪文を唱え始めていました。フライング!

「こら! まだ、合図を出しておらぬぞ!」
「いいさ。オレも年長者として、多少のハンデはやるよ」
「申し訳ございませぬ、ウィータ様」

 グラビスさん、可哀想。今日、何度目の代理謝罪でしょう。とはいえ、ちょっと代わりに謝り過ぎもします。
 アラケルさんを見ると、やっぱり悪びれた様子はありません。それに、いつの間にか、精霊が腕を回していました。私に投げつけられた精霊よりも大きく、人間サイズです。すらりと長い手足。モデルさんみたいですが、綺麗すぎる顔に乗っているのは、とても冷たい微笑みです。
 師匠はちらりと精霊を横目に入れて、ぷらぷらと手を振り返しました。
 グラビスさんはもう一度頭を下げると、そのまま深呼吸をしました。右腕がすっとあげられます。

「では――はじめっ!」

 さっと振り下ろされた右腕。低音の凛とした掛け声が、吹雪に混じって森に木霊していきます。

「雪花に属せし氷結の精霊よ、オレに従え! グラキエイー・サルドニカス!」
 
 グラビスさんの合図から間を置かず、アラケルさんの前にいる精霊の口から針状のモノが飛び出していきました。魔法映像を見ると、それが氷だとわかります。
 始めは小さかった氷針は、吹雪を取り込んで巨大化していきます。師匠とアラケルさんの距離は三・四十メートルあるかないかくらいですが、氷針はあっという間に巨木くらいの大きさになってしまいました。
 師匠に突き刺さる! 咄嗟(とっさ)に、私は手摺りから乗り出していました。師匠!

「天候に見合った属性を使うのは基本だな。発動した後、吹雪を利用してさらに魔法を強化するって発想は、悪くねぇ。ただ――」

 とんと、魔法杖の先が地面に軽く打ち付けられると、ドーム型の光りが師匠を包み込んでいきます。正面や頭上から氷の柱が光にぶつかった瞬間、水蒸気に変わりました。
 師匠を大きく取り囲んでいる光りは魔法陣のようです。レンズ状に歪んでるので、ちょっとわかりにくいですけど。

「最初に発動した術と吹雪の癒着が足りてねぇから、こんな歪んだ防御魔法でも溶かせる」
「……今のは準備運動だっつーノ」

 あぁ、アラケルさんまで負けフラグな台詞を言っちゃいますか。師匠には冗談混じりでやられキャラの台詞とか突っ込む時もありますが、アラケルさんは本当に最後まで準備運動で終わっちゃいそうです。しかも、準備運動の途中で。
 というか、魔法陣て、歪んでいても効果があるんですね。

「さすが、ウィータ様! 通常は文字や円が乱れると効果が薄れるどころか術も発動が難しい魔法陣を!」

 グラビスさんが興奮した状態で解説して下さいました。とても大きな声なので、上までちゃんと聞こえてきます。つまりは、平面に発動させるのが普通っていう解釈で良いのでしょうか。覚えおこう。
 グラビスさんが師匠を讃賞したのに苛立ったらしきアラケルさん。まとわりついていた精霊を見もせず、腕を振り切りました。
 思わず、あっと声をあげてしまいました。
 精霊は元々薄く透けていたので、実態ではないのかもしれません。少し眉間に皺を寄せただけで、すっと姿を消しました。
 けれど、煙のようにとは言え、腕に切られた姿は気持ちが良いものではありませんでした。軽くこみ上げた吐き気。無意識のうちに口を覆っていました。肩が小刻みに震えてしまいます。

「いくりゃ、しぇいれいかいにじったいがありゅといってみょ、しぇいきのてちゅぢゅきなくて、きょうしぇいてきにかえしゅは、きけんなにょぞ!」
「でしゅでしゅ! うでにみゃほーまとっちぇてても、みゃほうじんにゃしは、いちゃいのでしゅ」

 フィーネとフィーニスは、低く唸っています。下に垂れていたしっぽも大きく膨らんでいました。
 ということは、アラケルさんは精霊を呼びつけておいて、もう不要だからと跳ね除けた。つまり、玄関からではなく谷に突き落として帰したっていうイメージでしょうか。

「ひどい扱い。乱暴すぎる」

 自分でも驚くほど、出た声には悲壮感が滲んでいました。あまりに痛切だったのか、フィーネとフィーニスが顔をあげました。大丈夫との思いを込めて、二人の頭を撫でます。
 精霊と式神は性質が異なると言っても、人とよりは近い存在です。そんな二人には、もっと辛い光景だったに違いありません。
 強く抱きしめると、小さな前足できゅっと腕を掴まれました。小さな体は、とくんとくんと、確かに鼓動を打っています。
 嘔気に耐えながら魔法映像を見ると、ひと呼吸ほどですが、師匠と目が合いました。珍しく感情の伺えない瞳が印象的でした。
 こちらの映像は師匠に見えていないはずです。観客である私たちの姿を視界に入れても、集中力を乱す要因にしかならないと思うので。師匠の魔法なので、切り替えは簡単だとは思いますけど、今気にかけるべきなのは、相手であるアラケルさんの様子であるはずです。

「ちっ、使えねぇ奴。次こそ――」
「おい、くそ餓鬼」

 ぞくりと、背中を悪寒が走っていきました。全身が粟立つ低い声。師匠から出たとは思えない、冷たさしか感じさせない声は、音と表現した方が適切かもしれません。階段をあがっているさなかに聞いたモノより、一段と冷淡です。
 身を乗り出しますが、師匠の表情は前髪に遮られ、見えませんでした。魔法映像もアングルが変わってしまっていて、同じです。

「――っなんだヨ。つーか、くそ餓鬼って!」
「うるせぇ」

 固まっていたアラケルさんが、やっとという様子で眉を歪めました。が、すぐに師匠に口を噤まされました。
 表面上は似ているのに、いつもの「うっせぇ」とは全く別モノに聞こえる言葉。平坦な発音は、まさに無表情です。怒りさえ感じられません。

「お前の能書きは聞き飽きた。次は全力で来い。それで終わりだ」

 師匠は、アラケルさんの返事を待たずに詠唱を始めました。なんか「ずりぃ!」とか聞こえましたが、ヒト魔法毎に仕切り直しをするルールではないので、全然問題ないとは思うんですけど。っていうか、つい先程の自分をフライングを棚に上げて、よく言えますよね。
 師匠は聞く耳持たずと、しゃがんで雪の中に手を突っ込みました。冷たそうです。けれど、すぐに立ち上がりました。何してたんだろう。
 私の疑問が解けることはありませんでした。師匠は続けざまに魔法杖を体の前につき、瞼を閉じてしまいました。

「いつもと、違う、言葉」
「でしゅでしゅ」

 耳に入ってくる、言葉に首を傾げてしまいました。
 光りの玉がある杖先に額をあて、小さく口を動かしている師匠は、祈りを捧げているようにも見えます。そう思えるほど、神聖な空気が漂っています。
 グラビスさんならわかるでしょうかと、わずかに手摺りから身を乗り出します。すると、グラビスさんはひどく驚いた表情のまま、立ち竦んでいました。

「古代語……まさか、あれは!」
「古代語?」

 グラビスさんから掠れた声が漏れたかと思うと、今度は全身を震わせ始めました。
 と、眩いばかりの光りが視界を白くしました。反射的に閉じた瞼を開けると、吹雪はやみ、しんしんと雪が降っているだけになっていました。
 グラビスさんの視線を追ってみると。

「ししょーした、全部雪溶けてる!」
「きりぇーでしゅ」
「しゅいしょーのじみぇんにはんしゃちてりゅぞ」

 フィーニスの言う通り、めまぐるしく色を変えている魔法陣が、水晶の地面に浮かび上がっています。魔法陣は、結界を張ってくれた時のモノと比べると、格段に細かい模様で出来ています。しかも大きいです!

「今度は、ししょー、小さい魔法陣に、取り囲まれてる!」

 描写センスが残念だと自分でも思いますけど、マンホール程の魔法陣が腕二本くらいの距離を保ち、師匠の周りで浮いています。もっと美しく語れたらと、肩が落ちます。とほ。
 薄く瞼を開いた師匠が、深紅の魔法陣に手を翳しました。魔法陣は、あっという間に師匠の掌に吸い込まれていきました。師匠の手、掃除機みたい。
 と同時に、他の魔法陣は全て霞(かすみ)となって消えていきました。
 そして、師匠は再び瞼を閉じると杖の玉に触れます。その間もずっと、口は呪文を唱え続けています。

「アラケルさん、固まってる。大丈夫?」
「こじょーはどうでもいいにゃけど、あちょあじがわりゅくなるのはいやにゃぞ」
「じごーじちょくでしゅけどね」

 はっとして、アラケルさんの映った魔法映像に視線を移すと、口を開けっ放しで震えていました。瞳が溢れんばかりです。
 師匠がアラケルさんの命まで奪うとは思えませんが、これはかなり危険な状態な気がします。野生本能的に。
 だって、ある程度の魔法なら詠唱を必要としない師匠が、呪文を口ずさんでいる。それだけではなく、古代語を。
 必ずしも、古いモノが新しいモノより優れているとは言えませんが、お約束と皆さんの様子から察するに、間違いではないと思われます。
 とりあえず、グラビスさんの名前を思い切り叫んでみました。顔面蒼白なグラビスさんは、大きく体を揺らしました。

「いかん!! なにを愕然(がくぜん)としておる、アラケル!! 一刻も早く、お前が使える中でも最高位の防御魔法を張るのだ!! 可能なら、いや、何重にもだ!」

 鼓膜が破けるのではと思う大音量で、ようやくアラケルさんに表情が戻りました。けれど、彼と言えば、突っ張った皮を無理に引っ張って笑みを浮かべるという行動でした。

「なっ……なんだよ、親父。ぼっ防御なんてするわけないじゃん? もち、攻撃魔法で反撃を――」
「お前、魂まで消滅させられたいのか!! あの術が何か悟れぬほど、愚かではあるまい!」

 痛々しく引きつった頬で悪態をついたアラケルさんを遮り、グラビスさんが再度怒声をあげました。ここからでは表情の機微(きび)までは見えませんが、おふたりとも滝のような汗を流しています。
 視覚や状況判断ならともかく魔力のない私には感じ取れない部分の驚異を、彼らは肌で感じていらっしゃるんでしょう。私の内側にも師匠の魔力があるらしいので、少しは感じますけど、それでもおふたり程ではありません。

「フィーネ、フィーニス。大丈夫?」
「んにゃ」

 式神である二人は、何かしら影響を受けているのかと心配です。けれど、フィーネとフィーニスからは、しっかりとした鳴き声が返ってきました。ちょっと怯えてはいるようですが、問題はなさそうです。
 ひとまず、ほっと一安心。かくいう私も、わずかにしか感じていない魔力で、足裏が地面に縫い付けられてしまっていますけど。
 
「グラビスさん! 一体、なんの術、です?」

 未だに蒼白なグラビスさんが、ぎこちなく上を見上げてきます。
 数秒だけ目を合わせていましたが、特に言葉は返ってきませんでした。ただ白い息が吐き出されるばかりです。ややあって、視線は師匠の方に向けられてしまいました。私も追います。
 捉えた師匠は、掌を空に翳していました。と、頭上に紅色の魔法陣が現れます。最初はひとつだった魔法陣が、四方八方にも出現しました。私がいる二階よりも、上空にです。

「自分も、実際目の当たりにしたのは一度だけですが……神聖さに隠れた惨憺(さんたん)なる力。魂の戦慄。間違いなく、あれは」

 グラビスさんの声がどこか遠くから聞こえてきていると間違うほど、師匠の魔法に目を奪われてしまいます。
 魔法陣同士の間に光りが浮かび、それが結ばれると――六芒星が現れました。
 ぽかんと上空を眺めてしまいましたが、慌てて下を見ると、アイスブルーの瞳を空気に触れさせている師匠がいました。その色は、いつもより淡い色に思えました。人という存在から離れている。何故か、そう思える程。
 おもむろに掲げられていく魔法杖。腕が真っ直ぐ上空に伸びると、若干師匠の空気が和らぎました。あくまでも、師匠が纏うモノだけですけども。

「くそ餓鬼、良いのか? オレには精霊魔法、使ってる気配は感じられねぇが」

 師匠がわざとらしく呆れ顔を作っている間も、上空の魔法陣の前には巨大な炎が生まれています。
 グラビスさんも、大剣を地面に突き立て結界を張る必要があるほど、熱いようです。周囲の雪はすっかり溶けて、吹雪は見る影もありません。私たちは結界のおかげで、全く熱さは感じません。

「そっそれ……もしかして。嘘だろ。あんた、結界魔法を二重に張りながら、ソレも使えんのかヨ?! いや、見かけだけってことも……」
「ちなみに、魔法映像も全部オレが出してるなぁ」

 アラケルさんは自分に言い聞かせるように、震える声を出しました。次いで耳に入ってきた師匠の言葉で、雪に膝をついてしまいました。
 そんなアラケルさんに、グラビスさんが大剣を向けました。

「アラケル、まだ言うか! あれは――」
「だって、あれは――」

 アラケルさんとグラビスさんの声が重なりました。
 師匠は実に愉快そうな笑みを浮かべています。片方の口の端だけが、ぐいっと上がっています。大魔王降臨です。そのうち仰け反って、小指を立てながら高らかに笑い出しそうです。あっ、違うのが混ざった。
 でも、悪人面を見慣れている私には、静かだった時の方が怖かったです。
 ひゅっと誰かの喉が鳴りました。

「アルス・マグナ――偉大なる術――」

 三人の声が綺麗にハモリました。澄んだ空気に消えていった言葉。しんと、世界から音が無くなってしまったような錯覚です。
 って、良くわからないんですけど。とにかく、凄い魔法ってことですよね、きっと。
 魔法映像に映った師匠が、こちらを見ていました。こっち見えてたんですね。何と言って良いかわからず、きょとんとしてしまいます。
 どうしようか悩んだ挙句、拍手を送ってみました。へらっと笑った女が拍手している姿は、お世辞にも素敵とは言えないでしょうね。フィーネとフィーニスも、私に習ってか、肉球を弾ませています。
 謎の行動でしたが、師匠はご満悦な様子です。にかっと歯を見せて笑いかけてくれました。さすがにピースはしなかったですけど、ひらひらと、あいている手を揺らしました。喜んでるのかな、ちょっと可愛い。

「ってな訳で、くそ餓鬼に30秒だけやるぜ。いーち、にーい――」
「ちょいっ、まてヨ!」

 アラケルさんは膝をついたまま、詠唱を始めました。小さく刻まれていく言葉。光を伴った指先で文字を描いていきます。魔法陣にしていくというよりは、文字を上書きしていってる感じです。ですが、恐怖からか、思うようにいかないらしく、時折舌打ちをしています。
 とっくに三十秒は過ぎていますが、師匠は動きません。脅すような台詞を口にしながらも、ちゃんと相手を待っていてあげています。さすが年上、お年寄り。気は長い。
 って、いつもの短気は一体。魔法関連だけは、短気を起こさないでいられるのでしょうか。

「あれじゃあ、上位精霊呼べても、まともに制御は出来ねぇだろうな」
「そういうモノ?」
「あぁ。最悪、反動で爆発したりしてな」

 冗談だとは思うんですけど。師匠が手を顎に添えて「くっくっく」とか笑い出しちゃいました。背中に黒いモヤが見える気がします。実際口から出ている息は、白じゃなくて怪しい色をしています。魔法陣の光りでしょうか。
 魔法映像を挟んでも、はっきりとわかる笑い声です。というか、凄い術をしゃべりながらでも保っていられるんですね、師匠。
 そんな会話をしていると、アラケルさんの方から光りが放たれました。アラケルさんの顔には細かい傷が幾つも付いています。あれが制御出来ていない代償なんでしょうか。

「おいおい。上位精霊と眷属を喚んだのはいいとして、眷属を防御にまわすなんて、命知らずかよ」
「アラケル! 全員を防御に使うんだ!」
「黙れ! 俺なら、攻撃と防御の両方ぐらい完璧に使えるっての!」

 アラケルさんの周囲だけ、猛吹雪になりました。やがて吹雪は白い帯状になり、アラケルさんをすっぽり包み隠してしまいました。ソフトクリームみたいです。安全圏にいるせいか、緊張感が足りない表現ですみません。
 ですが、魔法映像が内側にあるおかげで、声も姿もばっちり見えています。
 師匠が眷属と呼んだ小さくて薄紫色をした精霊です。ソフトクリームの内側、それに外側の正面に何人もいます。そして、上位精霊らしき存在は、アラケルさんの頭上で口を大きく開き雪の結晶を作り上げています。師匠の炎魔法の影響か、思い通りにいっていないのが、細められた瞳からわかります。瞳といっても、目全体がガラスのようです。

「それが限界みてぇだな」
「これで充分ダ!」

 アラケルさんは相変わらず強気ですが、笑顔は消えてしまっています。
 確かに、雪の結晶は師匠の魔法陣と同様の大きさです。きらきらとダイヤモンドのような輝きを放っています。
 相性で言うと、火である師匠の方が不利なんでしょう。ですが、不思議と押されている様子はありません。むしろ、炎の勢いが増した気さえします。

「アルス・マグナ同士ならともかく、魔法の格が違いすぎて、相性など意味をなさぬというのに」

 グラビスさんが諦め気味に呟いたのが、風に乗って届きました。はっきりとは聞こえませんでしたが、音を立てて胡座をかいたのが見えました。腕を組んで、しっかりと前を見据えていらっしゃいます。
 ふと、師匠側が暗くなっていくのに気がつきました。どうやら炎が収縮していっているようです。時間が立ちすぎて、魔力が持たなかったのでしょうか。

「けっ! 大掛かりすぎて、威力を保てなかったってか! 遠慮なくいかせてもらうっすヨ!」
「おー魔力が空っぽになって気ぃ失う勢いでこいよー」

 アラケルさんと横並びの考えでした、すみません。ということは、事実とは違うんでしょうね。うん。
 師匠も動揺している素振りを見せていませんし、炎が幾つかに分かれて爪先サイズになったのには、ちゃんと前向きな理由があるんですね。

「いくぜ。オレを殺る覚悟で来い!」

 師匠が声を張り上げました。そして、とても良く通る声で一言、呪文を唱えました。最後の声と、杖が地面に叩きつけられた音とが重なり。炎の塊がまるで隕石のように落ちていきました!





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