引き篭り魔法使いが術を失敗して、巻き込まれてしまいました。

  

6.引き篭り師弟と、吹雪の訪問者たち 【3】

 「うわぁ、すごい、顔」

 覗き込んだ鏡には、目を腫らした自分がいました。みっともない、というよりは本当にひどい顔です。
 勉強机に突っ伏し声を押し殺して泣き始めて一時間。何に涙を流しているのかわからな
くなって、寝る前の習慣である日記をと思い、万年筆を手にとって十分。全く進んでいません。
 でも一年以上続けてきた日記を書かないで、寝る気にはなれません。文法勉強を交えての日記なので、特に今日は書かなければ。

「はぁ、ダメだな」

 枯れて可笑しな声です。ぐてんと体重を預けた机が、きしりと抗議の声をあげました。澄んだ空気が手伝って、やけに響きました。それさえも聴きたくなくて、耳を塞ぎます。
 耳に触れると、先程の師匠のぬくもりが思い出されて、体が震えました。誤魔化すように、着込んだ服の上から、さらにストールを巻き付けます。

「努力不足、悔しい。けど、もっと悔しいは、ししょーに迷惑かけるって思ってる、のに、気持ち、止められないこと」

 日記を見直して、ようやく、少しですが自覚しました。日記に書かれた師匠への気持ち、ちょっとずつの変化。
 突っ伏したまま、ぱらぱらと日記をめくります。装丁がしっかりした鍵付きの日記帳です。トリップした直後に、はけ口があった方がいいだろうと、師匠が用意してくれたモノです。当時は愚痴るのが必要なほど、ひどい扱いをする気なのかとか、一日の終わりまで勉強しろと強制しているのかと穿った見方をしてしまう時もありました。けれど、今なら、師匠の優しさだとわかります。

「私、ししょー、好き?」

 いつも口にしている言葉とは同じ、でも響きは違う。すでに真っ赤に腫れた目元が、さらに色づいたのがわかりました。
 呟いた言葉が、白い息と一緒に空気に溶けていきました。消えるのが当然と言われているような気がして、喉が詰まります。

「好きなければ……ただの弟子なら、アラケルさん馬鹿、言って、突っぱねられるのに」

 師匠は後ろめたく感じることはない、そう言ってくれました。けれど、あるんです。私の中には、ただの師弟としての触れ合いと胸を張れない理由が、存在するんです。ごめんなさい、師匠。
 ただ、この想いが単なる共同生活者への依存という錯覚だと思いたい。師匠だって、弟子として、もしかしたら孫や妹みたいな感覚で可愛がってくれているだけなんだ。それに、私の反応を面白がっての触れ合いを付け加えているのでしょう。

「私、いつか、元の世界戻る。っていうか、ほんと、帰れるの?」

 召喚された当初こそ焦りはありましたが、今はすっかり異世界に馴染んできてしまっている自覚があります。薄れていくのは、帰郷への危機感。
 就職活動に遅れをとったとか、留年させてもらえるかなとか、むしろマスコミの注目の的じゃないかとか。人事のように、たまに考えてみるだけです。
 何よりも、家族のことです。大好きだったはずなのに、帰りたくて、帰りたくて仕方がないとは思わないんです。私、こんなに薄情者だったのかな。

「った」

 ずきんと鋭い痛みが頭を襲いました。またです。召喚された瞬間や家族を思い出そうとすると起きる頭痛。ついでに、今日は胸のあたりもきゅうっと締めつけられました。乙女的感覚ではなく、実際にです。
 もうなんか、踏んだり蹴ったり。

「今度、ちゃんと、ししょーに聞く。決めた」

 よしと身体を起こして頬を叩きます。とりあえず、勉強をして寝ましょう。と、不意に冷たい空気に混ざって、甘い香りが漂ってきました。
 きゅるっと、お腹が素敵な音をたてました。

「あにむちゃ。あけちぇくだしゃい」
「はよしぇんか、おもいのじゃ」

 鍵を掛けた扉の向こう側から、舌っ足らずな愛らしい声がふたつ聞こえてきました。幼い声に、頬が緩みます。
 扉を開けると、目の前には、あったかそうな紅色をした紅茶とダックワーズ(に似た)お菓子が浮いていました。お菓子をのせたお盆は、待ちくたびれたというように素早く部屋の中に入っていきます。

「はやく、おろちゃんかい」
「ふぃーにす、おくち、わりゅいでしゅ」

 お盆をベッドの上に降ろすと、下から二人の式神が現れました。お盆を支えていた、背中に生えている羽根が、花びら程度の可愛らしいサイズに縮まりました。
 掌よりも少しだけ大きいネコを模した式神は、白と黒。ふわりと飛んで目元を舐めてくれている白猫がフィーネ。年寄りめいた口調で顔を掻いている黒猫がフィーニス。私がここに来てから作られた、師匠の式神たちです。成長する式神らしいです。

「ふたりとも、重かったよね。ありがと」
「しょーおもうにゃら、さめにゃいうちに、のみぇ」

 あぁ、もう可愛いなぁ! フィーニスがむすっとして、前足でお盆を叩きました。
 式神さんたちは、必要時以外は姿を現さないんですけど、フィーネとフィーニスは好奇心旺盛で森中を飛び回っています。時折、思い出したように戻ってくるんです。
 フィーネを撫でると、喉をごろごろ鳴らして嬉しそうに擦り寄ってきてくれます。あったかい。

「あるじちゃまが、あにむちゃにって」
「おんし、どーしぇねてにゃいからって。ありゅじに、かんしゃしりょ!」

 師匠が、という言葉にとくんと鼓動がはねました。いえいえ、ときめいちゃダメです。うん、さすが年の功。小娘の行動などお見通しということですね。恐ろしや。
 しかも、この二人に運ばせるあたりが憎いですね。おかげで癒されました。フィーネの垂れ耳をいじると、「うにゃん」と可愛い鳴き声があがりました。

「師匠は?」
「あるじちゃまは、おでかけにゃの。ふびゅきのせいで、しゅいしょーだみゃ、へんて」

 明日グラビスさんにお渡しする予定だった水晶球ですね。だから鍵をして寝ろって釘を刺されたんですね。
 フィーネとじゃれていると、フィーニスが不機嫌オーラを発してきました。早く食べろということですかね。せっかちさんなんだから。

「いただきます」

 ダックワーズをフォークで割ると、さくっといい音がしました。中はふわっとして、甘すぎないクリームが美味しい。爽やかな香りがする紅茶も、冷えた体に染み入ってきます。
 心も体もあったまってくると、また涙腺が緩んできました。

「にゃっにゃに、にゃいんてんにゃ。あにみゅの、しゅきにゃ、おかしにゃぞ!?」
「にゃがいっぱい、良くわからないよ」

 ぽろりと落ちた涙に、フィーニスが激しく動揺しました。ツンデレ万歳。
 声をあげて笑ってしまうと、「あにみゅのくちぇに、にゃまいきぞ!」と膝を叩かれました。てしてしと、ぶつけられる小さな肉球に悶えそうです。

「あにむちゃ、おいしくにゃかった?」
「ううん。美味しすぎて、泣いたの。ありがとう」
「にんげんって、めんどくしゃいのう。おいしいにゃら、おいしい。しゅきにゃら、しゅきでよかろーに」

 フィーニスの言葉に、体が揺れました。好きなら好きで良い。壁は世界なのか、自分の気持ちなのか。何もかもが中途半端な今の私には、判断がつきません。
 見上げてくるフィーネとフィーニスにもお菓子を割ってあげると、嬉しそうに食べ始めました。自然と、笑みが浮かびます。
 今更ながら、お盆に乗せられた手拭きに気がつきました。一応と手を伸ばすと、フィーネから「あっ」という声があがりました。

「わしゅれてた。しょれ、あにむちゃのおめめ、ひやしゅの」
「……師匠、気が回りすぎ。余計、苦しくなっちゃう。これ以上、好き、なっちゃダメなのに」

 手拭きは程よい冷たさです。じんわりと、はれぼったい瞼を冷やしてくれました。気持ちいい。そのまま、後ろに倒れて大の字になります。フィーネとフィーニスから軽い抗議めいた驚きの声があがりますが、直接責められることはありませんでした。
 目に被せたままの手拭いを取れば、フィーニスの怒り顔が見られるかも知れませんね。
 ふっと、顔の横で二人が丸まったのを感じました。

「あにむちゃ、くりゅしーの?」
「おんしは、ありゅじが、きりゃいにゃのか?」

 子どものように素直でまっすぐな二人。憂いた大きな瞳に、不安が混じっています。ごめんね、そうじゃないんです。
 どうしたものかと思考を巡らせていると、沈黙を肯定と取ってしまったのか、フィーネとフィーニスが擦り寄ってきました。フィーニスまで珍しい。

「ありゅじは、あにみゅのこちょ、しゅきじゃぞ?」
「ふぃーねと、ふぃーにすも、しゅき。だかりゃ、あにむちゃ、くりゅしーのいやにゃ」

 師匠が、私のこと好き。それが師匠の声じゃなくても、師弟の範囲でも、こんなに心が踊るなんて。もしかして私、中途半端どころか重症なんでしょうか。いえ、師匠のフォローに舞い上がっちゃってるだけなんだ。
 何より、フィーネとフィーニスの態度と言葉が嬉しいです。

「ししょー、好きだよ。大好き。だから、苦しいんだよ」
「しゅき、にゃのに、くりゅしー?」
「うん。あっ、っていうか。弟子としてね、役立ててないし。だから、苦しいの。それに、フィーネとフィーニス、も、大好き」

 まくし立てて早口になってしまいました。手拭いをとって、へらっと笑ってみせると、フィーニスが尻尾を膨らましました。あっ、何故か怒ってます。取ってつけたように大好きと言われてむかっ腹が立っちゃったのかな。
 二人のお腹部分を掴んで、自分の上に乗せます。抵抗はされませんでした。けど、やはりフィーニスは不満そうに口を歪ませています。こういう表情、師匠にそっくりでどきっとしてしまいます。

「嘘、ないよ? フィーネとフィーニスに、すごく、癒されてるもん」
「しょーゆうことじゃにゃいぞ! ありゅじは――っで!」

 興奮したフィーニスの前足に踏まれて、ふにっと胸がへこみました。全然痛くはなかったんですけど、私の代わりにとフィーネが前足を振り下ろしました。
 頭頂部を叩かれたフィーニスが、両前足で頭を抱えてうずくまりました。申し訳ないですけど、可愛いです。

「やだ、フィーニス。触りたいなら、触りたい、言ってよ。喜んで、抱きしめるのに」
「ばっばかいうにゃ! しょんにゃことゆうたら、ありゅじにおこりゃれるにゃ――っで!」

 頬に手を添えてくねくねと身体を動かしてみせると、フィーニスが涙目になりました。照れてるのか、本気で怯えてるのか。失礼な、抱き潰したりなんてしませんよ。というか、ちょっと腰が痛みました。
 そう言おうと思った瞬間、今度はフィーネがフィーニスのヒゲを引っ張りました。意外に手が出るフィーネ。師匠の変な部分が似ちゃってます。

「ふぃーねのあほ! らんぼうにゃぞ!」
「ふぃーにすが、にゃいしょ、もりゃすからにゃ」
「内緒な話、混じってた?」

 首を傾げると、ものすごくわかりやすく二人が固まってしまいました。ぶわっと、冷や汗が流れています。え、そんな焦るような疑問だった?
 フィーネとフィーニスは、壊れたブリキのおもちゃのように顔を見合わせて、愛想笑いを浮かべています。
 と、次の瞬間、取っ組み合いの喧嘩が始まりました。二人の世界をつくらないで! 私も仲間に入れて!

「ふぃーねのほうが、へましてるのにゃぞ!」
「もとみょと、ふぃーにすが、おくち、しゅべらせたにゃ! ひとのこいじをじゃみゃするやちゅは、うみゃにけりゃれてしまえ、にゃの!」

 喧嘩していても、舌っ足らずなので迫力は全然ありません。ただ、羽を広げて部屋中飛び回り始めてしまったので、起きる風で、単語をなぐり書きしていた紙が舞い上がってしまっています。
 それよりも、二人して暖炉に突っ込んだら、大惨事です。師匠がいないのなら、治癒も出来ません。

「ふたりとも、落ち着いて! よくわかんないけど、聞かなかった、しとくよ」
「しょーゆーもんだいじゃ、にゃい!」

 二人の揃った声に叱られて、肩がすくみました。反論する時は息がぴったりなんて、うちの弟妹そっくりです。
 こうなってしまったら、気の済むまで喧嘩させておくしかありません。幸い、魔法をぶっぱなしたりはしないので、そこまでひどい被害にはなりませんし。

「あっ! こりゃ、へやをでりゅなんてひきょうにゃ!」
「うっしゃい。ふぃーねがしちゅこいからにゃぞ!」

 暖炉に足りなくなってきた薪をくべていると、鍵の開く音が鳴りました。
 普段なら後をついていくんですけど、今日はお客様がいるので、出来れば外での喧嘩はやめて欲しいです。

「フィーネ、フィーニス。お客様の迷惑なる。出ちゃだめ」
「ぶんにゃっ!」

 『ぶひ』なのか『んにゃ』なのか、謎な悲鳴が響きました。
 開いた扉から、一気に冷気が流れ込んできて、体が震えました。急に入り込んできた空気に、薪が爆ぜます。
 扉にぶつかったらしいフィーニスが、鼻の頭を押さえています。風で開いてしまったのでしょうか。それとも、師匠がいるのかな。

「おみゃい、しょんなとこで、にゃにしちょる!」
「へー面白い式神だナ。口のきき方はなってねーケド」

 完全に開いた扉から姿を見せたのは、アラケルさんでした。なんでこんな所にアラケルさんがいるんでしょう。師匠の旧友さんはともかく、依頼関係や若い男連れのお客さんには、渡り廊下を挟んでの離に部屋を用意しているはずです。
 ぽけっと立っていると、ねっとりとした視線が向けられて、別の寒気に襲われました。

「そーいう風に髪束ねてるのも、イイじゃん」
「すけべにゃめで、あにみゅをみりゅな!」
「おとみぇのへやに、こんなじかんくりゅ、しちゅれいでしゅよ」

 おう。二人とも直球。
 確かに、アラケルさん、ノックもせずに人の部屋の前で何やってたんですか。ノックする直前だったとしても、師匠にあんなこと言われた後に、堂々とちょっかい出しに来れる神経がすごいです。
 それとも、客間に不都合な点でもあったんでしょうか。

「にゃにすんにゃ!」
「ちょっと! アラケルさん、乱暴やめて、ください!」
 
 アラケルさんの視界を遮ろうとしてくれていた二人が、荒っぽい調子で掴まれました。それぞれ掴まれたフィーネとフィーニスは、腹を強く押されて苦しそうに暴れています。尻尾でも抵抗していますが、アラケルさんは嫌な笑顔を浮かべるだけです。
 ひどいです。どんな理由があったとしても、二人に乱暴する人を、歓迎は出来ません。

「離して!」
「いい声だナ」

 足を踏み出すと、アラケルさんは二人に興味をなくしたのか、やはり乱暴に投げつけてきました。なんとかキャッチすると、二人はか細く鳴きました。抱きかかえた腕に力が入ります。
 いつの間にか距離が詰まっていたアラケルさんを睨みあげます。けれど、何をしても彼を喜ばせる要因にしかならないようです。

「近づかないで」

 捕まってしまったら、抵抗は難しいです。扉を横目に入れると、しっかり閉じられて、ご丁寧に鍵が掛けられていました。
 とにかく距離をとらなければ。退路を絶たれないように、テラスの方に後ずさりましょう。私が下がっていくのと腕の中でフィーネとフィーニスが低く唸っているのを、愉快そうに眺めているアラケルさん。

「へぇ。弟子にしては、随分待遇が良さそうだナァ。ベッドもすんげぇ柔らかい」

 うげぇ。アラケルさん、ベッドに腰掛けやがりました。いやらしい手つきでシーツを撫でています。洗おう。そっこう、洗濯しましょう。
 しかも、置いてあった紅茶を飲みました。これはもう、軽口ですむレベルじゃありません。ぶっちゃけ、嫌がらせですよ。

「にゃにあいちゅ。あにむちゃ、あいちゅ、しゅんごい、きもちわりゅいね」
「あぁいうやちゅを、かんちがいおとこ、いうのにゃぞ」
「二人とも、本音がだだ漏れ」

 可愛い二人と通じ合ったのには頬が緩みます。けれど、あんまりストレートに言うと、あぁいうタイプはプライドを傷つけられたって暴走してしまいますからね。喜ぶ詰(なじ)りの言葉と、感に触る言葉があるみたいです。漫画や小説の知識ですけど。
 はっとして顔をあげると、時すでに遅し。案の定、怒り顔で髪をかきあげているアラケルさんがいました。

「出来損ないの弱ぇ式神風情が」
「あっ! ばきゃ! あにみゅのまえで、まほう、つかうにゃよ!」

 フィーニスが慌てて前に飛び出そうとします。自分に投げつけられた言葉よりも私の安全を考えてくれるフィーニス。目の前で巻き起こった水色の風に怯えている場合ではありません。
 ぐっと歯を食いしばります。

「アラケルさん、すんごい迷惑。二人に謝って!」
「あんたも、黙ってりゃー可愛いのにナ。ちょーと声、なくしてもらうぞ。大丈夫、俺、声ないのはないで、興奮するからよ」
「あなたの好み、どうでもいい!」

 やばい。つい、きっぱりと反論してしまいました。急いで口を塞ぎますが、手遅れでした。
 青筋をたてたアラケルさんが、現れた精霊に命令を下しています。自分は人の神経逆なですることを平気で口にするのに、ちょっと反論されたからってキレるなんて、短気を通り越して頭大丈夫かなと心配になりますね。
 
「俺に従え、コンゲラート! 氷結の口づけで、手足の自由を奪え!」

 風が集まり現れたのは精霊。おとぎ話に出てくるような妖精に似ています。全身薄い水色をして、ロングドレスを身に纏っています。真珠のような宝石が周りに浮いています。
 精霊は、アラケルさんの荒っぽい言葉にしきりに頭を振っています。

「水晶の森、ししょーの魔法、溢れてる。他の人、森入った瞬間、魔法抑制の術、かかってるはず。そんな状態で魔法使う、あなたも精霊も危険」
「はんっ! あんな口ばっか魔法使いの術なんて、簡単に破れるっての」
「現に、精霊怯えてる、可哀想」

 そうです。精霊は泣きそうな様子で肩を震わせています。今も苦痛に耐えているに違いありません。
 ラスターさんとホーラさんの話を聞いてから、師匠が教えてくれたこと。旧友の皆さんはともかく、基本的に、訪問者の皆さんは森に足を踏み入れた時点で魔法を発動できなくなる術をかけられているそうなんです。
 それを無理矢理破って魔法を使っているということは、何かしらの反動が起きるはず。というか、すでに起こっていました。部屋中に魔法陣が浮かび上がり煌々と光を放っています。私の体幹を中心として、頭や胸、足元でも赤や紫の魔法陣がくるくると回転しています。不思議と、恐ろしくはありません。

「くっそ! なんだ、この不快な金属音!」

 アラケルさんは眉を顰めて耳を抑えています。私には金属音なんて聞こえません。確かに音は鳴っていますが、風鈴みたいで心地よいです。腕の中のフィーネとフィーニスを見下ろしますが、変わった様子はありませんでした。アラケルさんにだけ聞こえているんでしょうか。
 と、アラケルさんが嫌がる精霊を投げつけてきました。なんて男! そう叫んでやろうと思った瞬間、私は膝から床に崩れ落ちていきました。




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