引き篭り魔法使いが術を失敗して、巻き込まれてしまいました。

  

12.引き篭り師弟と、南の森の花畑4


「ししょー、おはよ」
「おぅ」

 スカートいっぱいに花を乗せて戻ってくると、ちょうど師匠が目を覚ましたところでした。とは言っても、ねっころがった状態で、瞼を半分開けているだけです。人のことを言えない大きな口で、欠伸をもらしています。
 フィーネとフィーニスは、スカートに乗せた花の中にちょこんと座っています。悶絶級に可愛いです。写真に撮って拡大して玄関に飾っておきたいくらい、ラブリー。この世界にも映写機(カメラ)はあるみたいですけど、私の世界でいうなら、昔ながらの大型タイプなんですよね。
 スマホもデジカメもリュックに入ってたんですけど、残念ながら電池切れです。雷魔法で充電してもらおうかとも思ったんですけど、万が一壊れてしまったらと考えると、二の足を踏んでしまいます。これも、元の世界に未練があるからでしょうか。

「みてみて、ししょー。子猫と花、盛りあわせ」

 師匠の前に立って、腰を屈めます。フィーネたちのお披露目です。
 それでようやく、師匠が目線をあげました。
 にこにこと、三人笑顔で師匠の言葉を待ちますが、一向に口を開く気配がありません。この可愛い姿を目の前にして、どういうこった。

「ししょー? まだ、半分、夢の世界?」
「んー、もうちょい、上」

 はて。上ってなんだろう。背を伸ばして空を見上げてみます。が、特に変わった様子もなく、相変わらず綺麗な青空が広がっているだけでした。魔法陣の木漏れ日に、目が細くなります。
 私が急に背を伸ばしたせいで、スカートも引っ張られてしまったようです。ぐらついたフィーネたちが、師匠のお腹へとジャンプして降りていっちゃいました。
 はぅ! 師匠のお腹の上でお行儀よく座って、私を見上げてくる姿も天使!

「あにみゅ、ちょっと痩せたのにゃ。昼はちゃんと食べたんかいな。いっぱい食べなきゃ、駄目ぞ」
「あっ、こらフィーニス」

 師匠が慌てた様子で、フィーニスの口を覆いました。上半身を少しだけ起こしている姿勢は、かなり腹筋を使っていそうですね。むむ。これは師匠の腹筋割れ説に、一票入った感じ。
 確かに、10日近く寝込んでいましたし、その半分以上ろくにご飯は受け付けられなかったですけど。痩せたというよりは、やつれたって言った方が、正解な気もします。
 
「っていうか、フィーニスってば、何で今?」

 こてんと首を傾げると、師匠はついっと目を逸らしました。目元が、ほんのり色づいているような……。
 私としたことが、ものすっごいお約束をかましてしまいました。何たる不覚!! 膝を折って、少し腰を落とします。

「ししょー、黙ってる、すけべおじじ! どこまで、みえた?!」
「お前が自分から披露してきたんだろうが。ったく」
「あにむちゃ、大丈夫でしゅ! おへしょは無事でしゅ! おぱんちゅも、ちょっとしか見えてないでしゅから!」

 フィーネの優しいフォローが辛いです。おぱんちゅって発音は可愛いですけど、その分、ダメージが半端ないです。
 出し惜しみするほどたいした足でもないです。わかってますよ。それに、胸ネタよりはまだましですよね。うん。
 自分を納得させようとしますが、フィーニスにびしっと太ももを指差され、再びめげそうになります。

「ぱんつより、太ももの方が大事にゃぞ。筋肉落ちてる、大変ぞ!」
「ふぃーにすは、おんにゃ心が、わかってないのでしゅ」
「にゃんじゃ、それは」

 やめて、二人とも! 純粋な言葉に、私の心がえぐれていくの! 
 前にフィーニスがしてみせたように、今度はフィーネが前足をちっちと左右に動かしています。フィーニスは思い切り目を細めているので、本気で意味不明なご様子です。
 笑顔の師匠がストールを引っ張ると、フィーネとフィーニスは、ぴょこんと肩に駆け上がっていきました。

「どっちにしろ、真っ黒のレースはやめとけ。お前、引き篭ってて肌が白いから似合ってはいるが、持ってる服にもお前のイメージにも合ってねぇ」

 師匠の言葉で一気に体温が上昇しました。師匠としては、変な空気にならないようにわざとかもしれませんけど。推測出来ても、やり切れないです。
 師匠の冷静な口ぶりが、憎たらしい。しかも、恥ずかしさのあまり固まってぷるぷる震えている私を、横目でにやりと笑っています。

「もうっ! そんな批評いらない! ししょー、変態、ロリ色好き!」
「あっ、フィーニス。お前とアニムが並んでるのが、しっくりこねぇって意味じゃねぇからな?」
「ばかししょー!」

 喉をくすぐられた黒い子猫のフィーニスは、気持ち良さそうに仰け反りながらも、「んな?」と首を傾げました。わかってない子に、いらないフォローしないで。
 そんでもって、私に大人っぽい色は似合わないですか、そうですか。
 じゃなくって、このセクハラ師匠め。前も思いましたけど、弟子の下着事情にまで口を挟まないで欲しいです。……恋人になったら、ちょっとくらい耳を貸してあげてもいいですけど。
 って、私、そういう問題じゃないです。落ち着け。どちらかというと、見られた恥ずかしさよりも、師匠のしれっとした態度の方が悔しいです。

「ししょー、なんて、花に埋もれちゃえ、の、刑!」
 
 考え抜いた結果、スカートに乗せていた花全部、師匠の上に落としてやりました。
 
「わーい! お花の吹雪でしゅー!」
「良かったなぁ、フィーネ」

 フィーネが喜んでるのはいいとして、なんで師匠まで嬉しそうに笑ってるんですか。両手をあげて笑顔のフィーネを撫でているのは、微笑ましくはありますけども。
 フィーニスはまだ色々納得いっていないようで、腕を組んで頭を傾けています。短い前足なので、組みきれてないのが、また愛らしいです。
 摘んできた花が、全部落ちていっちゃいました。そして、色とりどりの花を髪やら体につけちゃってる師匠は、悔しいくらい、絵画みたいに美麗です。

「お花、もったいない。花冠、つくる」

 胡坐をかいた師匠の隣に、勢い良く座り込みました。ちゃんと花を零したのと反対側なので、踏みつけないようには考えて。
 勢いあまって少しぐらついてしまい、師匠にぶつかってしまいましたよ。師匠の足を台にして何とか倒れこむのを堪えます。上目で師匠を盗み見ると、額を抑えて頭を振っていました。
 呆れられたのにかちんときて、反動をつけて体ひとつ分、離れてやります。

「そんな拗ねるなよ」
「拗ねてない。むくれてるの!」
「あほ弟子。大差ねぇだろうが」

 溜め息混じりに呟きながら、師匠はマントを畳んで私のすぐ横に座りなおしてきます。手元にある花の茎をいじる振りをして、横目に入れると頬が緩んでしまいました。
 だって、師匠ってば足首を掴んで、尖った唇を顔に乗せて覗き込んでいたんですもん。今度は自分が拗ねた様子で、私を伺っています。しかも頭に花をつけたまま。苦笑を浮かべて可愛くない私とは、正反対。

「ししょー、頭、花咲いてる」
「……なんか、引っかかる言い方だぞ」

 じと目になった師匠を無視して、頭についた花を取ってあげます。香りをかぐと、師匠の香りがした気がして、自然と笑みが浮かんでいきました。
 そのまま、花を耳に差し込みます。お花畑にいるんですから、可愛げがない私でも、これくらいの乙女的装いは許されますよね。

「どう? ちょっとは、女の子っぽい?」

 ほめてくれたら機嫌をなおしますと、暗に示します。師匠だったら、きっと心の内を読んでくれるに違いありません。
 でも、師匠はへの字口で固まっていて、何も言ってくれません。
 ちょっと師匠。私と花は、そんな絶望的に似合ってませんか。師匠の方が断然可憐だとはわかっています。でも、いくら自覚があっても悲しくなりますよ。

「無理言ったデス。お花に、失礼したデス。お花、枯れないうち、外す」
「枯れる訳ねぇだろう、あほ。じゃなくて、その、悪い」

 しょんぼりと耳にかけた手を、がつっと捕まれました。
 眉を垂らした師匠に、私の方が申し訳なくなってしまいました。だって、私。お世辞を言わないでくれる師匠が、好きなんですもん。
 へらっとした笑顔を貼りつけて、緩く頭を振ります。
 
「いいです。謝られる、もっとしょんぼり。ししょー、正直な反応、悪くない。むしろ、私、ししょーには、素直な反応、される方、好き。それより、花冠、作るから、手、離し――」

 言葉は途中で切られてしまいました。出しかけた声は、自分の喉に戻ってきてしまいました。首を傾けた師匠が、視界いっぱいに広がっていきます。じっと唇を見られて数秒、柔らかい感触が遠慮がちに触れてきました。
 レモンシフォンの髪が、目の前で、さらりと流れました。太陽と魔法陣の光を受けて、きらきら輝いています。
 って、これ――きっキス!! なんで?! 寝るの?! 師匠ってば、また寝るつもりでのおやすみ挨拶?!
 突然の触れ合いに、驚きどころじゃありません。明るい中でのキスって、始めてじゃないですか?! ぎゅっと目を瞑っている私は、物凄く不細工でしょう。心の準備が欲しかったですよ!
 しかも、上唇やら下唇やらに、ゆっくり優しい調子で愛撫されています。はむっと嵌れては、離れて、一瞬強く食いつかれて。また、ふわりと触れ合う。
 触れているのか触れていないのか。曖昧な感覚がくすぐったいですが、すごく心地よいっていうか気持ちいいって言うか。でも、むずむずしてきます。隙間から出る吐息が、熱い。

「しっ……しょ」
「ん?」

 「ん?」じゃないです! 真っ赤になっているであろう頬を撫でている手をぎゅっと掴んだり、隙を狙って抗議の声をあげたりしますが、効果はありません。
 やっと師匠が体を浮かせたと思ったら、親指の腹で唇を撫でられ、かぁっと体温があがると同時に、やけに切ない気持ちになってしまいました。
 情けない表情になった私を見下ろす師匠の瞳は、愉快そうに細められています。くいっとあがった口の端。お得意の悪人面。だけど熱を帯びた視線が、悪戯を企んでいるだけではない心を含んでいるようで、苦しくなります。
 その視線から逃げるように、師匠の胸に両手をついて、下を向いてしまいました。その手の甲すら、師匠は優しく撫でてきます。

「お前さ、一回、オレの前で、どんな顔で笑ってるか――どんな仕草で、どんな行動とってるか、鏡で見てみろ」

 耳元で囁かれて、びくりと体が震えました。からかっているようで、どこか怒っているようにも聞こえる声。
 師匠は離れず、差し込まれた花の香りを嗅いでいます。

「かっ鏡って。あほっぽい、子どもっぽい、いうこと?」

 必死に絞り出している声は、恥ずかしさのあまり震えています。師匠とのキスは初めてじゃないのに、毎回、心臓が爆発しそうです。いつも違う調子なんですもん。
 私の返答が気に食わなかったのか、師匠は耳たぶを甘噛みしてきました。ついでと言わんばかりに、指がうなじを滑っていきます。

「ひやっ!」
「わざとらしく、色気のねぇ叫びあげやがって。それに、子どもって、お前はオレを何だと思ってやがるんだ」

 苦々しい口調で溜め息をつかれましたが、ようやく師匠が密着状態から解放してくれたので反抗はしないでおきましょう。
 ぶつぶつ文句を言いながらも「ったく。似合ってない、なんて言ってねぇし」と、落ちそうになった花を差し直してくれる師匠。
 へにゃへにゃになった顔もそのまま、ちらっと上目で伺うと、ぐりぐりと頭を小突かれてしまいました。地味に痛いんですけど。

「だから、そういう無防備な誘い顔すんの、気をつけろってんだろ! 好き好き言うのも、そろそろ意味を考えて口にしろ!」
「さっ誘うって何?! 別に、普通だもん! それに、好きは、ほんと。ほんと、伝える、いいこと!」
「あほアニム。一番たちが悪いんだよ! 自覚がねぇなら、体に叩き込むだけだぞ!」

 師匠、口にしているのはとんでもない内容ですが、片膝を立てておでこを突っついてくる姿は、すっかりいつもの調子に戻っているので、怖くありません。
 ほっと一息ついたのも束の間。師匠の後ろに見えたのは、うずくまって、小さな手で目を覆っているフィーネとフィーニス。ちょこっと手をずらしたフィーネと目が合うと、慌てたようにすぐ目を瞑られてしまいました。

「にゃあ、ふぃーね。ふぃーにす、いつまで、こうしてればいいのぞ? ケンカ、とめなくていいにょか?」
「しーでしゅよ! 昨日、センしゃん、言ってたでしゅ。あるじちゃまとあにむちゃのケンカは、『愛を育んでいるから、そっと見守るモノ』でしゅって」

 すんごいダメージを与えられました。センさん、間違った情報を私の可愛いフィーネに教え込まないでくださいよ。
 さすがの師匠も可愛い二人をまる無視状態だったのを、反省したのでしょう。肩を落として、二人を手招きしました。

「フィーネにフィーニス、悪かったな。こっち来い」
「私には、ごめん、ないですか」
「お前に口づけしたのは、悪いと思ってねぇからな」

 いえ、キスじゃなくて、頭をぐりぐりされたことに対してだったんですけど。悪いと思ってない、という言葉が嬉しくて、またにやけそうになってしまいました。ふにふにと頬を揉んで、緩みをとめようとしますが、うまくいきません。
 仕方がないですよね? キスされた後に謝られるより、断然嬉しいんですもん。しかも、ちょっと澄ました横顔が、かっこよかったんです。
 それも師匠に見られていたようです。思い切り眉を寄せて、綺麗な顔が強張りました。

「おまっ……いや、もう、いいや。オレの心と体力が、吸い取られてくだけだわ」

 ひらひらと振られた手が、やけに疲労感いっぱいでした。
 師匠が諦めてくれたなら、噛み付く必要はありません。頭を切り替えて、花冠を作りましょう。
 近くに寄ってきたフィーネとフィーニスが、拾った花を渡してくれます。受取りが間に合わなくなると、太ももの上に、せっせと置いてくれるようになりました。
 大きな花をアクセントにして、あとはこぶりな花で可愛く纏めてみましょうかね。

「茎も一緒に摘んできたのか?」

 師匠の指に挟まれた黄緑色の花が、くるくる踊っています。
 師匠の言う通り。花冠に使っている花には、茎もしっかりついています。というか、茎がないと編めないんですけどね。
 郵便屋さん係に飽きたのか、満足したのか。フィーネとフィーニスは、私の腿の花を潰さないように座って、花たちが繋がっていくのを興味深そうに見上げています。

「バスケットのは、ちゃんと、花だけ。フィーネとフィーニス、教えてくれた。茎、美味しいって。晩御飯のおかず、使おうと思って」
「お前ら、食べ物に関しては、ほんとに鼻が利くよな」
「にゃんか、あんまり褒められた気がしないのぞ」

 フィーニスの言う通りです。師匠ってば、何気に失礼。
 もっと言ってちょうだい、と心の内でフィーニスを応援します。でも、師匠に頭を撫でられたフィーニスはご機嫌になってしまったので、追撃はありませんでした。
 師匠、お願いですから、小さなフィーニスの体から手を滑らせて、私の足を撫でるなんてことしないでくださいね。悪気がなくても。
 と、急に師匠が顔をあげます。いつもと違って下から顔を覗き込まれ、どきっとしてしまいました。すっと、目の下を指が滑っていきました。

「目、赤いな。……泣いてたのか?」

 急に落ちた声のトーンが、鼓動を早めます。師匠の低い声って、心臓に悪いんです! 普段とのギャップもありますが、単純に好きなんですもん。
 眉がひそめられたのは心配からでしょうが、師匠を苦しめているようで申し訳ないです。
 嬉し泣きレベルですし時間も経っているし、キスの時も気付かれなかったので、大丈夫かと思ったのですが。
 そのまま頬に降りてきた掌と、縮まった体の距離。指の背が頬を滑って、胸が跳ね上がりました。

「えっとね。フィーネとフィーニス、花飾り、作ってくれたの。可愛いし、嬉しいしで、ちょっと、ぽろっと。だから、大丈夫!」

 少々、自分で墓穴を掘った気がしないでもないですね。バスケットの上に置いておいた花飾りを手に取り、師匠に見せてあげます。
 私の太ももの上で自慢げに背を伸ばしたフィーネとフィーニスの様子もあってか、師匠は手を放してくれました。二人の尻尾が、勢い良く左右に振られています。
 師匠は無言のまま私の手から花飾りを取って、興味深そうにしげしげと見つめています。

「ほぅ、すげぇな。こんな珍しい魔石、どっから見つけてきたんだ?」
「紫の石は、西の泉の中、泳ぎまわって探したのぞ!」
「薄い翠のおみじゅ、きれーだったでしゅ。不思議なお色まざったのは、しょこの主(ぬし)しゃまのお手伝いしたら、くりぇたでしゅの」

 犬掻きならぬ、ネコ泳ぎで綺麗な水を動き回っている二人を想像すると、鼻血が出そうです。可愛すぎて。短い足を使って、縦横無尽に水をかいている姿、すごく見たかったです。
 今度は連れて行って貰おうっと。この世界に水着というモノがあるか、ホーラさんか街にいる買い出し専門の式神さんに聞いてみましょう。なかったとしても、何とかします。二人と戯れるために!

「泉の主か。眠りから覚めたばっかで機嫌悪くなかったか?」
「そんなのなかったぞ? ありゅじと同じ瞼落ちてたから、邪魔してごめんなさいしたら、笑ってたのじゃ」
「でしゅ。あと、あるじちゃまとあにむちゃしてるみたく、おはようのご挨拶とおでこにちゅうしたら、喜んでくれたでしゅよ!」

 フィーネとフィーニスってば、初対面の人に! 人じゃないでしょうけれど、お母さんは無邪気な二人が心配よ。というか、私たちみたいにって……。
 師匠と目が合いましたが、お互い微妙な気まずさから目を逸らしてしまいました。さっきのキスに比べたら別に普通の挨拶行為ですけど、なんともいえない恥ずかしさが頬の熱をあげます。
 フィーネとフィーニスは師匠に褒めて撫でてもらって嬉しそうなので、黙っておきましょう。
 返された花飾りを、そっとバスケットの上に置きます。楽しそうに色んな冒険の報告をしているフィーネとフィーニス、それに相槌を打っている師匠を視界の端に入れながらも、花冠を編む手を動かします。
 とてもあたたかい雰囲気。耳を傾けているだけでも、不思議なくらい幸せです。

「できたー!」

 頭自体が小さい子猫用なので、あっさり仕上がりました。ちょっと歪んでる部分もありますが、久しぶりにしては上出来だと思います。
 どや顔で二人に被せます。フィーネは桃色、フィーニスには水色のをです。ついでに、尻尾にもたんぽぽのような花を巻きました。

「あにむちゃ、ありがちょー! かわいいでしゅー!」

 ちゃんとフィーネの垂れ耳が見えるように作った自分、グッジョブ! 肉球で頬を押さえてるフィーネの方が、何万倍も可愛いですよ!
 フィーニスは口を尖らせて、花冠をぽんぽんと叩いています。

「ふぃーにすは、可愛いよりかっこいいがいいのぞ。でも、ありがたく貰っておくのじゃ」
「うんうん、フィーネもフィーニスも、可愛さとかっこよさに磨きかかってる!」

 大人しくしていた師匠は、水魔法で鏡みたいなモノを、フィーネの前に作ってあげたようです。師匠のこういうさり気なさも、好きなんです。うん、大好き。
 きらきらと目を輝かせ自分の尻尾やら頭を見ているフィーネの姿は、乙女そのものです。フィーニスも満更ではない顔で、ポーズを取っています。
 しばらく、そうしていた二人は、私の足から飛び降りていきました。興奮したからでしょうね。体を動かしたくて堪らない様子です。
 二人でじゃれあっている姿は、極上の癒し光景ですよね。いつの間にか戻ってきて座っていたウーヌスさんの近くで、蝶をかまい始めました。

「ししょー、にも、作ってあげるね」
「そりゃ、どーも」

 後ろに片手をついて花を手にした師匠は、一見すると全く興味なさそうです。むしろ、気だるそうです。
 けれど、私が編み始めると、フィーネやフィーニスがしてくれたように、花を集めてくれました。あくまでも座ったままですけど。師匠は腕が長いので、問題はないんです。
 せっせと花を手に取る姿は、やけに可愛くて。頭を撫でてあげたくなる衝動を抑えるため、空を見上げました。




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